転落事故に遭遇


 夕飯から11時前にホテルに帰って部屋に戻ろうとして、三階(2nd floor)のエレベーターを出ると、親方たちの部屋の方に行く通路に杖をついた高齢男性が道に迷っているのに会う。話を聞くと、15号室に帰ろうと思うのだが部屋が見つからないという。三階の各方向への通路のところに掲示されている案内には15号室はない。去年きたときに親方の部屋がどこか見つからなかったように案内が悪いホテルなのでねえ。ホテルの部屋番号の付け方は下の階の方が小さな部屋番号になっている傾向にあること、高齢者でも通路の方向は間違いにくいが階を間違えている可能性は高いことから、F氏にこの人を見てもらい、親方は階段を降りて2階に行って15号室を探すが、やはり15号室の案内はどこにも見つからない。8〜14号室っていうのはあるけど15号室が見つからないんだけど、と2階から声をかけると、ああ、14号室だったといいながら、階段を降りようとする。部屋を間違えるなんておかしいなあ、と思った。またエレベータを使ったほうがいいのにと思いながら階段の下にいる。エレベータを薦めた方がいいのはわかっているのだが、本人の意思を尊重するのも福祉の基本なのでと思い、声をかけなかったのは失敗。
 この高齢者はつえをつきながら階段を降りようとして、はじめの2、3段目で踏み外し、二階まで転げ落ちた。階段の表面はすべてじゅうたんで覆われており、またその下は木のようであり、衝撃は強くなかったようではあるが、じゅうたんなのでどこからが1段なのか高齢者に見難く、踏み外しやすかったのも事実。結局頭から滑り落ちてきた高齢者を親方が受け止める。
 駆け下りてきたF氏に後を任せて、親方は1階のフロントまで走る。フロントでは男性スタッフが電話をかけていたが、「高齢者がいま階段からおっこった!」と叫びながら走ってくる親方を見てすぐに電話を切り、一緒に走って現場へ。走りながら親方は簡単に状況を説明。このスタッフは状況をみてすぐに救急車を呼びにフロントへ戻る。その間に騒ぎを聞きつけたのか、高齢女性と高齢男性がひとりずつやってくる。女性のほうはちょっと反応が怪しげだが、男性のほうは怪我をした男性の仲間らしい。スウォンジーから来ていて、ジャージーには7回目なんだそうな。怪我をした男性も意識はあって話は問題ない。見た限りは頭頂部を擦り傷で出血しているが、それほど重症には見えないが、やはり救急隊員にきちんと診てもらうに越したことはないので、床に寝かせたまま救急車を待つ。F氏が親方の持っていたティッシュペーパーを頭に当てて出血をとめようとする。少し経ってスタッフが救急箱を持って戻ってきたので、ガーゼをもらって怪我をしているところにあてる。
 それからスタッフは救急車を見に行くとフロントに戻り、しばらくしてまたやってきてまだやってこないといい、というのを2回やったあと、ようやく救急隊員がやってきたのは転落してから20分以上経ってから。Jerseyはいいところだけど、これほど救急車が来るのが遅いとちょっと心配なところですねえ。F氏が救急隊員に簡単に、転落した側の右手に浮腫が見えることなどを説明し、救急隊員に後は任せて部屋に戻る。ひとつ問題は、親方もF氏も助けたときに血が腕についてしまったこと。あの高齢者が肝炎などを持っていたら感染するリスクがありますので。まあ、すんでしまったことは仕方がないです。あの高齢者が悪い病気を持っていなかったことを信じるしかない。半年ほどしたら検査をしてみましょう。
 このあとアイロンを持ってきてくれたスタッフは、「もう一回言わせてもらうけど、どうもありがとう。」と言う。当然のことをしたと思う以前に、うまくやったら事故を未然に防げたという思いもあるので、複雑な気持ち。部屋がわからなくなるというのは典型的な事故を起こす前の前兆だということは本等では知っていたが、実際に遭遇したのは初めてだったので、事故が起こるまでそんなことを思いもしなかった。


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